『パーフェクト・ワールド』(1993)

パーフェクト・ワールド』(1993)
A PERFECT WORLD
アメリカ・138分】

パーフェクト ワールド [DVD]

パーフェクト ワールド [DVD]


監督: クリント・イーストウッド
脚本: ジョン・リー・ハンコック
撮影: ジャック・N・グリーン
出演: ケヴィン・コスナークリント・イーストウッド、T・J・ローサー


どこかのねじが一本抜け続けているような、しかし文字通り「完璧」な、傑作である。

理不尽なはずの二人の逃走劇は、『続・激突!/カージャック』(スティーヴン・スピルバーグ)のごとく、いつまでも見続けていたいという気持ちをかきたてる。おそらく、彼らの持つ非現実的なほどの純粋無垢さが途切れぬことを、我々は静かに祈らずにはいられないのだろう。

ケヴィン・コスナー演じる脱獄囚の主人公・ブッチは、突拍子も無く8歳の少年・フィリップに銃を握らせ、(突如として彼を)誘拐する。
今にもレイプされそうな母を救い、自分に暴力を振るった男をたたきのめしたブッチに、父親を知らないフィリップはどこか親しみを覚える。
そして、フィリップを選んだブッチもまた、少年にかつての自分の姿を投影する。

彼らは互いを、自身の欲望を実現してくれるべき対象として見つめている。
フィリップは、ブッチが自分の抑圧された世界を押し広げてくれる強靭な「父親像」たりうることを、
ブッチは、フィリップの目に自分自身が、自分を抑圧してきた「父親像」として映らぬことを、願っているのだ。それがたとえ無意識的なものだとしても(過去の自分を救済しようとするかのように)。
そして、彼らの沈黙の欲望に応えるように、周囲の人物は2人を「親子」だと認識する。「似たものコンビだ」と。

ところが、ブッチの「投影」が、その純粋無垢さに従うあまりに、我々の沈黙の祈りを逸脱する行動を呼び起こしてしまうとき、フィリップは自ら銃を握る。そしてその姿は、まさに少年時代のブッチの姿に重ね合わされるのだ。

「投影」が現実の「一致」を呼び覚ますとき、2人はついに、本当の親子以上の愛情に辿り着く。そして、ブッチは、自分の旅のつづきをフィリップに託し、かつての自分の姿(ゴースト)の仮面を脱ぎ去った、血の繋りのない少年が去っていくのを、静かに見守り続けるのである。


ていうか、この作品は批評でとやかく言ってしまうよりも、見て感動するべき映画だ。