『ファット・シティ』(1972)

『FAT CITY』(1972)
アメリカ・92分】
監督: ジョン・ヒューストン
原作: レナード・ガードナー
脚本: レナード・ガードナー
出演: ジェフ・ブリッジス/ステイシー・キーチ/スーザン・ティレル/キャンディ・クラーク

ハゲ散らかしたステイシー・キーチが素敵。
ボクシング、酒、女、ましてや“fat・city”なのならば物語のあらすじは正に予想通りなのだけど、暴力もセックスも描かずに見ているものを脱力に落とし込んでしまう心理描写の巧みさは、人物の内面に入り込むことなしに人間味を持って据え置かれたカメラの賜物だと思う。
サイレントに思えるほど語ることを豊富に備えた画面の中で、「おしゃべり」であることがあらゆるコミュニケーションを破壊する。聞く耳を持ってもらえないコーチ、しゃべればしゃべるほどケンカしてしまう女、弁解するほど疑われる少年、その一方で挿まれる無言の殴り試合。
そして、ラスト、ステイシー・キーチは、出会った少年に「話そう」と訴える。彼が必要だと気付いたのは、この映画のカメラのように、立ち止まってみる視点だったのだろうか。
彼を追い出した黒人青年の、他人を見つめるまなざしが、とても印象的だった。こわかったし、憎かった。